Google検索は世界シェアの約90%を握っており、多くのユーザーが「検索といえばGoogle」と思い込むほどの認知度を得ている。年間2,000億ドルにも及ぶ広告収益が、検索関連サービスやインフラへの多額の投資を支える源泉となり、その技術力をさらに向上させる好循環を生んでいる。
一方で、Googleの収益構造は検索結果ページに表示する広告に大きく依存している。GmailやGoogle Drive、YouTube、Chromeなど関連サービスとの連携からアクセスを得る仕組みも確立しているため、ユーザーを手放さないエコシステムが完成している。しかし、広告モデルの依存度が高いからこそ、広告を排除する大胆なUI/UXの刷新や有料プランの導入といった抜本的な改革に踏み切りにくいというジレンマも抱えている。
このように検索単体で挑むだけではなく、Googleが築いてきたプラットフォーム全体の囲い込みとどう戦うかが鍵になる。新興検索エンジンにとっては、Google利用に慣れたユーザーの乗り換えコストをいかに超える価値を提示するかが大きな課題といえる。
2. PerplexityとKagiが提供する差別化要素
Perplexityは複数のAIモデルを並列稼働させる「AI回答エンジン」としての先進性を武器にしている。ユーザーがクエリを投げると同時に複数のモデルを呼び出し、回答の質とスピードを両立させようとする狙いがある。さらに、ベンチャーキャピタルによる豊富な資金があるため、独自インデックスや自社の大規模言語モデル(LLM)を高速ペースで開発しやすい体制も整っている。
Kagiは広告を一切排除したうえで有料課金制を導入し、検索結果のノイズを徹底的に取り除くという差別化を図っている。クローリングの段階で広告やトラッカーが多いサイトをインデックスから外す方針を取り、数は少なくとも質の高いウェブページを優先する仕組みを作り上げている。有料モデルゆえに投資家のリターンに左右されにくく、ユーザー体験を長期的に磨く路線を走りやすいのも特徴だといえる。
両社に共通するのは、大手検索エンジンで埋もれがちなサイトやニッチな情報源を拾い上げることで、ユーザーにストレスの少ない検索体験を提供しようとする姿勢だ。エンジニアの裁量を大きくし、素早いフィードバックサイクルを回せるようにしている点も共通項に挙げられる。スタートアップ特有の機動力を生かして利用者を増やすことを狙っている段階だと考えられる。
3. 技術面での優位性と課題
Perplexityは自社で開発したLLMを検索と統合する動きを加速させている。クエリごとに複数モデルを走らせる仕組みや、推論の高速化を目指す専用のスケジューリングエンジンを開発するなど、先端技術を取り入れる姿勢が際立つ。ただし、サービスが拡大するほどインフラコストとモデル管理の難易度が高まり、大企業に比べてリソースが限られる点が将来的な課題となる。
KagiはCrystal言語で書かれた独自フレームワークを用い、Flow Based Programmingというメソッドを使うことで並行処理と可視化を両立させようとしている。複雑な処理を図式的に管理し、エンジニアが全体像を把握しやすい仕組みを作っているが、Crystalのエコシステムはまだ十分に成熟していないため、規模の拡大時に技術的なボトルネックが起こりやすい懸念がある。
両社ともGoogleほどの巨大クローラーネットワークを持たず、クローリングやインデックスの運用面で実績が浅い点も見逃せない。ただし「すべてを網羅しない」「広告過多なサイトは取り込まない」といった独自基準を明確にすることで、運用負荷を下げつつ差別化を狙う戦略が有効になっている。
4. ビジネスモデルとユーザー獲得戦略
Googleは広告を軸とした無料モデルで巨大化してきたため、単純に広告なし検索を打ち出すだけではユーザーを大幅に奪うことは難しい。GmailやYouTubeなどから自然に誘導されるエコシステムが確立していることで、ユーザーを逃がさない仕組みが整っている。
Kagiはその真逆を行くかのように「有料」「広告なし」で勝負し、広告に疲弊したユーザーを取り込む狙いを明確にしている。自分たちが不要と判断したサイトをインデックスしない一方で、良質なサイトを重点的にカバーすることで検索結果のクオリティを高め、有料課金に見合う価値を提供しようとしている。
Perplexityは現在は無料提供が基本だが、VC資金を得ている以上、将来的には収益化策を定める必要がある可能性が高い。APIをB2B向けに提供したり、一部機能を有料化したりといった多角的な選択肢が考えられるが、広告モデルに回帰するかどうかはプロダクトの方向性に大きく影響を与えるテーマだといえる。
5. 長期的視点での勝算と展望
短期的には、Googleのシェアを大きく動かすのは容易ではない。PerplexityとKagiはまずニッチ層や先端技術を好むユーザーから評価を得て、広告まみれの検索結果に不満を抱いている層を少しずつ取り込む形になるだろう。Googleが広告収入との兼ね合いでAI回答型検索の導入に消極的な部分を残すようであれば、その隙を突いて差別化する余地がある。
中期的には、Perplexityは独自のAI技術をさらに磨き上げて回答性能と検索品質を両立し、より高度なユーザー体験を実現する可能性がある。Kagiは広告ゼロを貫くことで有料課金を安定させ、限られたユーザー層から強い支持を得る道筋を描けるかもしれない。広告を排除した分だけ、ユーザーがいっそう情報探しに集中できる点に魅力を感じる人々を確実に取り込むシナリオが考えられる。
長期的に「Googleを超える」とは、市場全体のシェアを逆転するだけが定義ではない。プライバシー意識や生産性を重視する層に特化し、その領域では圧倒的にGoogleを凌ぐ存在になることも「勝利」の一つの形だといえる。GoogleはAIチャットボットのBardや自社のエコシステムを活用してAI導入を推進しているが、広告モデルから離れ切れない構造的な弱点も抱えている。そこに突破口を見いだせれば、PerplexityやKagiは一部ユーザー層を着実に獲得し続けるかもしれない。
最終的には、広告モデルと検索品質をいかに両立させるかがGoogleの今後の課題であり、PerplexityやKagiにとってはそこがチャンスになり得る。広告を捨てることが難しいGoogleに対し、広告ゼロやAI回答を前面に出す両社の存在は、一定の支持を得るだけの下地がある。世界的に見ればGoogleの牙城は固いが、一部の領域で「Googleは広告が多くて使いにくい」という不満が拡大すれば、PerplexityやKagiには大きな追い風が吹く可能性がある。
結論
PerplexityとKagiは、それぞれの異なるアプローチでGoogle検索の弱点を突こうとしている。Perplexityは複数のAIモデルを駆使する回答エンジンにより、高速かつ的確な回答を目指しており、ベンチャーキャピタルの支援でインデックスやLLMの整備を急ピッチで進めやすい状況にある。Kagiは広告を完全に排除した有料検索を貫き、有益なサイトを厳選してインデックスすることで「検索をスムーズにする」「煩わしさがない」という価値をユーザーに提供しようとする路線を選んでいる。
Googleは豊富な広告収入と自社サービスの連携によるエコシステムの強固さで依然として絶対的な存在感を持っている。しかし、広告漬けの検索結果やAI回答型検索への本気度に疑問を抱くユーザーが増えれば増えるほど、新興勢力にも十分なチャンスがあるといえる。PerplexityやKagiが市場のすべてをひっくり返す可能性は高くないが、特定領域や特定のユーザー層で高い満足度を実現して「広告に頼らない検索」の存在意義を示すことは十分に射程圏内にある。広告を手放せないGoogleとの構造的な違いを強みにできるかどうかが、両者の長期的な行方を左右する重要な要素だと考えられる。